…６…
「ただいま」
今日も家の中は、ガランとしている。
きっと兄は、今日も自室にこもりっきりだ。
母は本当に帰って来てはいないようだ。
昨晩、父が広げた空の缶ビールとおつまみのミックスナッツが、リビングのテーブルの上に、広げられたままになっていた。
綺麗好きで専業主婦の母は、テーブルの上に物を出しっぱなしにするのが嫌いだ。
私もよく「片付けしなさい」って怒られる。
でも、たかだか一日いないだけで、こんなに部屋が散らかるなんて……
いつもと様子が少し違うだけなのに、自分の家でないような気さえする。
私は手早くテーブルの上を片付けると、三階へ上った。
なんとなくいつもより静かな気がして、兄の部屋のドアをノックしてみた。
中からは物音一つしない。
「お兄ちゃん？」
恐る恐るドアを開ける。
そこには、カーテンが引かれたままの、主のいない抜け殻のような空間が広がっていた。
どこに行ったのだろう……
外出することなんて、めったにないのに。
今日も父は仕事で遅いに違いない。
本当に家に一人ぽっちだ。
