「じゃぁ、あたしはもう行くから」
「藤崎さん、何か用があってここにきたんだろ? 何かの授業の資料探しとか? もう用は済んでんの?」
「うん、まぁ……」
「ふーん?」
めったに人が来ないという図書資料室にやってきて、何の資料も持たずに手ぶらで去っていこうとするあたしを、梶谷くんが不思議そうに見つめる。
あたしがここにやってきた目的は、資料探しではなくて信憑性の薄い噂探しだからな。不審に思われても仕方ない。
「あたしの用はもう大丈夫だから。それに、梶谷くんの彼女ももうすぐ来るかもしれないでしょ?」
「彼女? 彼女って……、あぁ、有希?」
あたしの質問がピンとこなかったらしい。きょとんとした顔で少し考えたのちに、梶谷くんがけらりと笑った。
「違う、違う。彼女とかじゃねーし。ていうか、あいつ何してんだろな」
続けて独り言みたいにあたしにはよくわからないことを言って、梶谷くんが制服のポケットからスマホを取り出した。
「なんだ。だいぶ前に有希からメッセージ入ってんじゃん。仲直りできたからもういいって……、何だよ、それ」
顔をしかめて何やらブツブツ言っている梶谷くんを、ぽかんと見つめる。
何だかよくわからないけれど、さっきから何度も名前が出てくる「有希」は、梶谷くんの彼女ではなくて。状況から推測するに、ここでの待ち合わせもすっぽかされてしまったらしい。



