「あ、そっか」
梶谷くんが左耳の後ろを掻きながら、あたしから退いて手を差し伸べてくる。
その手の意味がわからず、首を傾げながら柔らかな布の上に肘をついた。
どうやら倒されたのは、梶谷くんが寝ていたカウチの上だったらしい。
ゆっくり起き上がろうとしたら、梶谷くんに腕をつかまれて強引に引き起こされた。
「悪ぃ。寝起きで、藤崎さんの後ろ姿が知り合いに見えた。ここ、放課後はめったに人来ねぇし、まさかあいつ以外のやつが目の前にいるなんて思わなくて」
「ね、寝起きだからって、人違いが過ぎるでしょ。と、特にっ、ああいうことする相手と待ち合わせしてたなら余計に……」
制服の上からだっけれど、男の人の手に胸を触られた感覚がまだ残ってて。恥ずかしいのと、屈辱なのとで思い出すだけで泣きそうだ。
カウチに腰かけたまま、目の前に立つ梶谷くんを睨み上げたら、彼がけらりと笑った。



