彼女は嬉しそうにそれを受け取った。
「ありがとう。ちょっと散らかってるけ
ど、中入って」
そう言って大きくドアを開ける。
「じゃあ、少しだけ……」
俺は促されるまま玄関に入り、靴を脱いだ。
入ってすぐの扉を開けば、広めのワンルー
ムは真四角で、窓を避けるように、ベッドや
ローチェスト、テレビや観葉植物などがお行
儀よく配置されている。散らかっていると言
っていたが、そんなことは全くなく、むしろ、
普段から綺麗にしているのだということが
窺える。
俺はさりげなく部屋を見渡すと、
「いい部屋だね」と彼女に言った。
「そう?築年数は古いんだけど、リフォー
ムしてあるから壁もフローリングも綺麗なの。
色々置くと部屋を掃除しにくくなるから、あ
んまり細々とした物は置かないようにしてる。
それより座って。お茶よりコーヒーがいい?」
そう言いながら部屋の隅にあるガス台に向か
おうとした彼女の手を、俺は咄嗟に掴んだ。
彼女は驚いたように振り返り、俺を見る。
パジャマにケーブル編みのざっくりとした
カーディガンを羽織った彼女は、片方の手で
その襟元を掴んでいる。
「いいって。病人なんだから、安静にして
てよ。お茶もコーヒーもそのビニールに入っ
てるし、熱いのが飲みたかったら俺が淹れる
から」
つい、と視線をベッドの方へ流しながら言う
と、彼女は困ったように頬を染めて首を振った。
「滝田くんが来てくれてるのに、ベッドに
なんて入れないよ。でも、飲み物も買ってき
てくれたんだ。ありがとう。お言葉に甘えて
これをいただくわ」
掴んでいた手を離すと、彼女は納得したよ
うに笑んでビニールを覗き込んだ。そうして、
座って、と四角いテーブルを指した。
丸く、可愛らしいクッションに胡坐をかくと、
彼女もベッドに背を預けるようにして座る。
膝を立てて座るその横顔は、髪が短いからか、
それともメイクをしていないからか、今まで
とはずいぶん雰囲気が違って見える。
とてもしっかりとした、自立した女性。
ずっとそんな風に思っていたのに、目の前に
ある横顔はどこか頼りなく、そして、儚げだ
った。
俺はテーブルに並べられた缶コーヒーに手を
伸ばすと、それを開け、一口、二口と喉に流し
込んだ。彼女もペットボトルの紅茶を選び、
キャップを捻る。
けれど手が滑るのか?
それとも、熱で力が入らないのか?
キャップは中々開いてくれない。
俺はその様子に気付き、頬を緩めた。
「貸してごらん」
そう言うと彼女は「ありがと」と肩を竦めた。
キャップを一捻りして、ぺりり、と開ける。
それを彼女の手に持たせると、彼女は笑みを
浮かべ紅茶を一口飲んだ。
そうして、息を吐く。
どちらともなく視線が交わり、笑みを深める。
「ありがとう。ちょっと散らかってるけ
ど、中入って」
そう言って大きくドアを開ける。
「じゃあ、少しだけ……」
俺は促されるまま玄関に入り、靴を脱いだ。
入ってすぐの扉を開けば、広めのワンルー
ムは真四角で、窓を避けるように、ベッドや
ローチェスト、テレビや観葉植物などがお行
儀よく配置されている。散らかっていると言
っていたが、そんなことは全くなく、むしろ、
普段から綺麗にしているのだということが
窺える。
俺はさりげなく部屋を見渡すと、
「いい部屋だね」と彼女に言った。
「そう?築年数は古いんだけど、リフォー
ムしてあるから壁もフローリングも綺麗なの。
色々置くと部屋を掃除しにくくなるから、あ
んまり細々とした物は置かないようにしてる。
それより座って。お茶よりコーヒーがいい?」
そう言いながら部屋の隅にあるガス台に向か
おうとした彼女の手を、俺は咄嗟に掴んだ。
彼女は驚いたように振り返り、俺を見る。
パジャマにケーブル編みのざっくりとした
カーディガンを羽織った彼女は、片方の手で
その襟元を掴んでいる。
「いいって。病人なんだから、安静にして
てよ。お茶もコーヒーもそのビニールに入っ
てるし、熱いのが飲みたかったら俺が淹れる
から」
つい、と視線をベッドの方へ流しながら言う
と、彼女は困ったように頬を染めて首を振った。
「滝田くんが来てくれてるのに、ベッドに
なんて入れないよ。でも、飲み物も買ってき
てくれたんだ。ありがとう。お言葉に甘えて
これをいただくわ」
掴んでいた手を離すと、彼女は納得したよ
うに笑んでビニールを覗き込んだ。そうして、
座って、と四角いテーブルを指した。
丸く、可愛らしいクッションに胡坐をかくと、
彼女もベッドに背を預けるようにして座る。
膝を立てて座るその横顔は、髪が短いからか、
それともメイクをしていないからか、今まで
とはずいぶん雰囲気が違って見える。
とてもしっかりとした、自立した女性。
ずっとそんな風に思っていたのに、目の前に
ある横顔はどこか頼りなく、そして、儚げだ
った。
俺はテーブルに並べられた缶コーヒーに手を
伸ばすと、それを開け、一口、二口と喉に流し
込んだ。彼女もペットボトルの紅茶を選び、
キャップを捻る。
けれど手が滑るのか?
それとも、熱で力が入らないのか?
キャップは中々開いてくれない。
俺はその様子に気付き、頬を緩めた。
「貸してごらん」
そう言うと彼女は「ありがと」と肩を竦めた。
キャップを一捻りして、ぺりり、と開ける。
それを彼女の手に持たせると、彼女は笑みを
浮かべ紅茶を一口飲んだ。
そうして、息を吐く。
どちらともなく視線が交わり、笑みを深める。



