そんなことを考えながら、逸る気持ち
のままひらりと手を振って身を翻した俺
に、「あ」と、また彼女が声を漏らした。
その声に振り返れば、少し言い辛そうに、
「あの、五十嵐さんね」と言葉を続ける。
図らずも、彼女の口から聞かされた事実
に、俺はこれ以上ないほど目を見開いた。
そうして、あの夜、手を剥された瞬間に
傷ついたような目をした彼女を思い出した
のだった。
彼女の家は、単身者用の低層マンション
だった。築年数はそれなりに経っていそう
だが、駅からの道筋は明るく、セキュリ
ティもしっかりしている。俺はコンビニで
買い漁ったそれらを片手にエントランスを
進むと、中に入り、モニター付きインター
ホンの部屋番号を押した。
-----ピンポーン、ピンポーン♪
軽快な音が鳴って、しばらく沈黙が流れる。
耳を澄まし、彼女の気配を探ってみるが、
返ってくる返事はない。
あれ、もしかして寝てるのかな?
やっぱり、先に連絡を入れるべきだったか。
今さらそんなことを考えながらもう一度
インターホンを押すと、俺はじっと耳を澄ま
した。すると数秒後、インターホンの向こう
からガサガサと人の気配が聞こえた。
続いて、素っ頓狂な声が耳に飛び込んで
くる。
「嘘っ!!滝田くん!?なんで????」
その動揺ぶりに苦笑いしながら、そして
意外に元気そうな声にほっとしながら、俺
は彼女に話しかけた。
「ごめん。折原さんから風邪で休んでるっ
て聞いて、無理言って住所を教えてもらっ
たんだ。これ、お見舞い買って来たんだけ
どさ、ちょっと渡せるかな?ダメならここ
を開けてくれれば、ドアノブに掛けとくよ」
モニター越しにコンビニのビニールを見せ
て返事を待つ。一瞬、迷うような空気が彼女
から感じられたが、まもなくオートロックが
解除された。
「ありがとう。そのまま上がってきてく
れる?で、申し訳ないけど、玄関の前で10
分だけ待ってて欲しい」
「了解」
俺は笑顔でそれを了承すると、自動ドアを
くぐり抜けた。そうして、バタバタと慌て
て支度をしているであろう彼女を想像しな
がら、階段を上がった。
「ごめんね。お待たせ」
そう言ってドアを開けてくれた彼女は、
話に聞いていた通りばっさりと切った短い
髪を撫でつけながら、ぎこちない笑みを
浮かべた。俺は目を細め、首を振る。
彼女が髪を切った理由が自分にあるのだと
思えば、知らず、見せる笑顔が硬くなる。
「俺の方こそ、突然ごめん。どうしても
心配だったから、顔だけでも見れればと思
って。これ、適当に買ってきたんだけど」
熱が高いなら、するりと喉を通るものの方
がいいだろうと考えながら選んだプリンや
ヨーグルト、ゼリー飲料、ざる蕎麦などが
入ったビニールを差し出す。
のままひらりと手を振って身を翻した俺
に、「あ」と、また彼女が声を漏らした。
その声に振り返れば、少し言い辛そうに、
「あの、五十嵐さんね」と言葉を続ける。
図らずも、彼女の口から聞かされた事実
に、俺はこれ以上ないほど目を見開いた。
そうして、あの夜、手を剥された瞬間に
傷ついたような目をした彼女を思い出した
のだった。
彼女の家は、単身者用の低層マンション
だった。築年数はそれなりに経っていそう
だが、駅からの道筋は明るく、セキュリ
ティもしっかりしている。俺はコンビニで
買い漁ったそれらを片手にエントランスを
進むと、中に入り、モニター付きインター
ホンの部屋番号を押した。
-----ピンポーン、ピンポーン♪
軽快な音が鳴って、しばらく沈黙が流れる。
耳を澄まし、彼女の気配を探ってみるが、
返ってくる返事はない。
あれ、もしかして寝てるのかな?
やっぱり、先に連絡を入れるべきだったか。
今さらそんなことを考えながらもう一度
インターホンを押すと、俺はじっと耳を澄ま
した。すると数秒後、インターホンの向こう
からガサガサと人の気配が聞こえた。
続いて、素っ頓狂な声が耳に飛び込んで
くる。
「嘘っ!!滝田くん!?なんで????」
その動揺ぶりに苦笑いしながら、そして
意外に元気そうな声にほっとしながら、俺
は彼女に話しかけた。
「ごめん。折原さんから風邪で休んでるっ
て聞いて、無理言って住所を教えてもらっ
たんだ。これ、お見舞い買って来たんだけ
どさ、ちょっと渡せるかな?ダメならここ
を開けてくれれば、ドアノブに掛けとくよ」
モニター越しにコンビニのビニールを見せ
て返事を待つ。一瞬、迷うような空気が彼女
から感じられたが、まもなくオートロックが
解除された。
「ありがとう。そのまま上がってきてく
れる?で、申し訳ないけど、玄関の前で10
分だけ待ってて欲しい」
「了解」
俺は笑顔でそれを了承すると、自動ドアを
くぐり抜けた。そうして、バタバタと慌て
て支度をしているであろう彼女を想像しな
がら、階段を上がった。
「ごめんね。お待たせ」
そう言ってドアを開けてくれた彼女は、
話に聞いていた通りばっさりと切った短い
髪を撫でつけながら、ぎこちない笑みを
浮かべた。俺は目を細め、首を振る。
彼女が髪を切った理由が自分にあるのだと
思えば、知らず、見せる笑顔が硬くなる。
「俺の方こそ、突然ごめん。どうしても
心配だったから、顔だけでも見れればと思
って。これ、適当に買ってきたんだけど」
熱が高いなら、するりと喉を通るものの方
がいいだろうと考えながら選んだプリンや
ヨーグルト、ゼリー飲料、ざる蕎麦などが
入ったビニールを差し出す。



