「ほら、おいで」



ビューー…


まるで私に来るなと言うように、ベランダから一際大きな風が吹いてきた。



どうした?と言わんばかりに私の言葉を待つ織を見て、ハッとする。



「……あ…2階から…物音がして…」

「ごめん」


「あっ…いや、ううん…そうじゃなくて、」


「……眠れ…なくて…」



2階から物音がしたのは本当だけど、そうじゃない。


もしかしたら織がまだ起きているのかもって、思ったから来てしまったんだ。


恥ずかしくて俯いたとき、ふっと小さな笑い声が耳をくすぐった。


そっと顔を上げてみれば、織は優しく目を細めていた。

そして心地のいい低音が鼓膜を揺らす。



「ほら…、おいで」



また織がその口癖で私を甘やかす。

その言葉を聞くだけで、すべての感情を優しく包み込まれているような気がして、ほっと安心する。


何も言わずに黙って隣に並ぶと、織は自分が来ていた上着を、私の肩にかけてくれた。


寒いでしょ、かしてあげるよって言わない。


でも何も言わずとも、その優しさは私の心までもあたたかくしてくれる。



でもこれじゃぁだめだ。だって織が寒くて凍ってしまう。

私は黙って織に上着を掛け返した。


すると織は目を丸くして、そして私から隠れるように顔をそらして、肩を震わせた。