「ほら、おいで」



…間違い電話か?


俺の電話番号を知っている人なんて、片手で数えられるくらいだ。


バイトの店長か、自分の家族か、…それから幼なじみか、幼なじみの母さんか。


家族とは滅多に電話しないし、しかもこんな時間だ。

残すは…幼なじみと、幼なじみの母さん。


なぜか変な胸騒ぎがした。



『……はい』

『織くん、こんな夜に突然電話したりなんかしてごめんねぇ。立夏の母です』

『…あぁ、いえ』

『りつか、織くんの家に来てないかな?』

『………え』



思わず足を止めた。



『あの子と言い合いになってね、それで家を飛び出して行ったのよ、も〜〜ほんっとに、上着も持たずに、どこいったんだかっ』

『………俺…いま、バイトの帰りで』

『あっ…そうなのっ、ごめんねぇ、忙しいのにありがとうねぇ』

『あ……いえ』



バイト終わりの、ぼうっとした頭で思いつく言葉なんてなかった。

プツリ。電話が切れる音がした後、あの日を思い出させるかのように、パラパラと雪が降り始めた。