お母さんは何度もけいのほうを振り返りながら、

ゆっくりと部屋を出ていきました。

けいは、出ていった場所をぼんやり見ていました。

「あっ」

けいは、窓のところに急いでいきました。

真っ暗な窓から、チラチラと雪が見えます。

少しよじ登って見ていると、お母さんが病院から出てくる姿を見つけました。

お母さんは少し歩いて、こっちを振り返りました。

けいに気づいて、手を振ってくれました。

お母さんは雪が降る中で、ずっと手を振ってくれました。

とっても寒そうでした。

それにこのままじゃ、バスに乗り遅れちゃう…

そう思って、けいはベッドに戻りました。

でも、やっぱり気になってしまい、窓の下からこっそりと覗いてみました。

まだお母さんは立ったまま、こっちを見てました。

けいは窓の下から右手だけを出して、左右に小さく振りました。

お母さんは、それに気づき優しく笑いました。

それから後ろを向いて、バス乗り場に歩き始めました。


けいはまた窓によじ登って、その姿を見てました。

お母さんの身体が雪にまじって…

だんだん消えていくような感じでした。

お母さんが、いないくなってしまう。

そう思ったら、涙が出てきました。

でも、明日も来るって約束したんだよね。

雪の中に消えていったお母さんの姿を思い出しながら、

けいはそう言い聞かせました。


ベッドに入って布団にもぐり込んで、

周りに聞こえないようひっそりと泣いたあと…

けいは布団から出て、さっき読んでもらった絵本を手に取りました。


明日は、ぼくがお母さんに読んであげよう。

ぼくが読んでお母さんを喜ばせてあげよう。

けいは、涙声で絵本を読みはじめました。