お母さんはけいをベッドの上に持ち上げました。

それから、服を脱がせて、さっき買ったパジャマに着替えさせます。

パジャマを着ているときにお母さんは言いました。

「これから、少しだけここがけいのお家よ。お母さん、毎日、会いに来るから、けいも少しだけ我慢しようね」

ぼくは今日、一緒に家に帰れない。

家にはお父さん、お母さんがいる。

それが当たり前だと思ってたのに。

はじめて、一人だけになる…

とってもとっても、悲しい言葉でした。

でも、けいは今度は泣きませんでした。

だって、周りには子供たちがいます。

それに、お母さんの顔を見ていたら…

今度は自分が泣いたらダメ、お母さんを悲しませたらダメだって思ったからです。

「うん、ぼく、ここでがんばるよ」

お母さんの目を見ると涙でいっぱいでした。


しばらくすると、他の子供たちのところに、お母さんやお父さんがやってきました。

お昼寝の時間が終わって、面会の時間になったようです。

みんな、さっきまでと違ってとっても楽しそうで、笑い声が部屋にいっぱいでした。

けいはさっき見た女の子のことを思い出しました。

「お母さん」

「なあに?」

「ぼく、絵本が読みたい…」

お母さんは笑顔で、わかったといって、

お店に行って絵本を買ってきてくれました。

そして、けいの横に座って絵本をやさしい口調でゆっくりと読んでくれました。

お母さんの匂いをすぐ横に感じながら、

幸せそうにお母さんの声を聞いてました。


絵本を読み終わったときには、もう窓の外が暗くなってました。

他の子供たちのお父さん、お母さんはもう帰ってしまい、いません。

でも…

お母さんは時間ぎりぎりまでけいの横にいました。

ナースさんがやってきて、

「面会の時間は終わりですよ」

と、お母さんに言いました。

いよいよ帰る時間がやってきました。