夜が明けぬなら、いっそ。





男は特別な反応をすることなく、酒を穏やかに呑んでいた。



「私は正真正銘、女だ」


「…また面白いことを言うね。腰に1つ持っておいてそれはない」


「これは一般的な刀と比べて軽いもので作られた特殊なものだ。私は瞬発力が武器だからな、暗殺にも良く使える」



その男と私を囲んでいた吉原の女は、淡々と繰り広げられる物騒な会話に顔が引きつっていた。

酌をしようと小瓶を持つしなやかな手さえ、カタカタと震えている。



「てっきり最初から気づいていたと思っていたが。青臭いのはお前もだな」



皮肉を込めて言ってやった。


本当に女だとは思われていないのか…。

確かに今まで暗殺的にすら見破られたことはなかった。

いつも笠で顔を隠していたし、布で顔の半分は覆っているとしても。


それでも背丈は子供と間違えられるくらい小さいというのに。



「…小雪、どうして暗殺なんかやっているの」



小雪ではないというのに、男は平気で呼んでくる。

名付け親にでもなったつもりなのか。


私の本当の名は“トキ”だ。

生まれたばかりの頃から親は居なかったが、育ての親が付けてくれた名前がある。