「ぜひぜひウチの飼い猫を探してください…!!」
「いやいや!数年前に無くなった私の着物を…!」
「俺を壮大に振りやがった女を探してくれ…!!頼む…!!」
万屋とは、確かに何でも受け持つ仕事ではあるが。
それは今回だけ特別に名前を使っただけに過ぎない。
……それもこれも景秀のせいだ。
「ふっ、あははははっ!!残念ながら俺達は万屋の前に気分屋なんです。今日のところはこれまで」
「そんなぁーーっ!!」
別に何もうまくない。
本気で落ち込む町人に囲まれる中、得意気な連れを睨んでおいた。
……気分屋の万屋。
あとから思い出すと、語呂だけは面白い気もする。
「ふっ…、ふふっ、」
「……あんた、女だったのか…!?」
「……失礼する」
「あっ!ちょいと待ってくれよ…!!」
人混みを掻き分けるように抜けると、もうすぐ冬の終わる風が髪を撫でた。
今宵は満月だ。
こんな夜も悪くないと、誰にも見られないようにもう1度笑った。
「楽しいんだね、小雪」
「───…あぁ」
「……」
隣を歩く男にだけは、その顔を見せたって許される気がする。
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