「あれ?酒はまだ無理なの?やっぱり青臭い餓鬼だねぇ」
そうじゃない。
そうじゃないが、酒は呑まないようにしている。
常に命を狙う立場の自分は、それ同等狙われる立場でもあるから。
ただ、今はまた少し違う理由があった。
「ここは……吉原…」
「そうそう、眠らない街……か。けど、どうしたって朝は来る。情緒には敵わないってところが俺は嫌いじゃない」
饒舌な奴なんだと思った。
初対面の人間にも愛想を振り撒ける天性のものがあるのだろう、この男には。
だとしても狐のようなその憎たらしい笑みが気にくわなかった。
見ていてとてつもなく気持ちが悪い。
「ほら呑もうよ小雪。こんな夜なんだ、楽しくやってもバチは当たらないだろ?」
「こういう場所には慣れていない」
「女も居るよ。お前はどれが好み?やはり最初は大人が良いと思う、俺はね」
「私は女だ」
言わなくていいとも思ったが、色んなことを断る理由として効果はあるだろうと。
一々他の言い訳を探すのも面倒だった。



