だから無意識にもつぶやいていた。
ありがとう───と。
きっと女物の着物を誰かさんから着させられたり、いつもより浮かれていたんだと思う私は。
「…だが私は人斬りだ。お前に好かれる道理もないが……それでも、」
仲良くしてくれるか、なんて。
そんな私の顔を同胞がどんな目で見ていることか。
「っ、触んじゃねぇっ!!」
「、数馬…?」
「オ、オレの名前を気安く呼ぶな…!!人殺しが…っ!!ひぃぃぃぃっ!!」
それは風が通りすぎるように、たった、ほんの少しの幸せのようなものだった。
こうして鮎を食べて話している間は自分の本当の姿を忘れていて。
女として見られたからか、普通のどこにでもいる娘と同じような気持ちになっていた。
それくらい落ちぶれていた。
「…小雪、」
数馬の姿は今はない。
乱暴に開けられたボロボロな襖から差し込む冷たさが、せっかく暖まった空気を冷やしてくる。
「小雪、」
「…私は、“トキ”だ」
お前が言っていたように十を殺す鬼だ。
小雪などではない。
雪のような綺麗な存在なんかではない。



