夜が明けぬなら、いっそ。





そしたら、玄関から出てきたのは父さんではなく、若い青年が出てきた。

見たこともない男で、頬には血が付着していて、鼻と口を手拭いで隠して、逃げるように出てきた。



『まて…っ、』



でもその少年の足を這いつくばるように掴んだのは、紛れもなく父さんで。

血だらけで、もう少ししたら父さんは死んでしまうだろうと思ってしまうくらいの致命傷。



『…あ、』



と、私が声を出したときにはもう父さんの心臓は一突きだった。


だけど驚いたのはそこから。

父さんの寝転がる屍をじっと見つめたと思ったら、そいつはしゃがんで手を合わせたのだ。

なにを血迷ったのか、合掌をしていた。


…そんな男は、私は1人しか知らない。


そう、“1人”だけなら知っている。

そいつが私の───…仇だ。



「…けいしゅ、」


「なに?」


「お前は……これから、どうするんだ」


「俺は…、暗殺者に戻るよ。たくさん任務があったけれど全部蹴っていたからね」



そうか、と。

柔らかく返事を落とした。



「…そろそろ、上がる」


「駄目だ」


「なぜだ」