夜が明けぬなら、いっそ。





なんのつもりだ、どういうことだ。
そう言いたいけれど許してしまう。

追い込むように深く重ね合わせられて、甘い吐息がくすぐってくる。


たった今あんなにも冷たい言葉を言ってきたくせ、腕も唇も眼差しも、全てが優しいから黙るしかなくなる。



「んん…っ」



割って入った舌。

ピクッと中で震えてしまうと、そんな動きに合わせるように優しくなる。


本当は、お前なら良いと思った───…なんて。


あのとき城の縁側で言われた言葉の返事は、とうに決まっていた。

だけど私は、お前にはもうそれ以上の幸せをたくさん与えてもらったから。



「…しょっぱいな、池の水ってしょっぱいんだね小雪」


「…あぁ」


「だけど癖になる。…悪いね、もう1回、」


「っ!」



確かそれは9歳のとき。
その日は父さんに使いを頼まれた朝。

そういうことは少なくなかったから、町へ下って枝豆や煮干しを買って。


いつものように家へ戻った。

けれど家に入る寸前で違和感を感じて、見破られないように少し遠くから様子を見ていたんだ。



「んっ、景秀…、くるしい、」


「…俺も苦しいよ」