あぁ、そういうことか。
こいつは私に対する特別な気持ちがあって傍に置いていたんじゃなく。
ただの同胞として、暗殺者として置いていただけだったんだと。
「俺は徳川の人間だ。お前のように身分ない爺さんに育てられた捨て子とは違う。…分かり合えないね、やっぱり」
「だったら、お前がいま私をここで殺せばいいだろ…、」
面倒なら斬ってしまえ。
織田 信長だって言っていただろう。
鳴かぬなら 殺してしまえ 時鳥───と。
「…殺すにも値しないんだよ、お前なんか。どちらにせよ遅かれ早かれ放っておけば死ぬんだから」
「っ…、」
「お前はこんなところに居ていい人間ではないんだよ、小雪」
でも、“小雪”って今でもお前は呼んでくるじゃないか。
どうでもいいなら“トキ”だろう。
お前にとって本当にどうでもいいなら、今だってそんな震える腕で私を抱き締めていないはずだ。
どれだけ不器用なんだ、なんて馬鹿な男なんだ。
「っ、…悪かったな、お前の役にすら…立てなくて」
ピチャン、ピチャン───…。
水面に落ちる私の涙と音の回数が、なぜか合わなかった。



