夜が明けぬなら、いっそ。





どうしてそんなに泣きそうなんだ。

そんなふうに聞ける器用さすら、私だって持ち合わせていない。



「小雪、お前は江戸から離れろ」


「…え…?」


「薬、蘭方医にたくさん貰ってあるから俺。それ持って……どこか遠くへ行ってしまえよ」



なんだ、行ってしまえって。

そんな乱暴な捨て方があるか。


お前が連れ歩くと決めたんだろう、同じ匂いを感じるから。

だったら死ぬまで傍に置いてくれたっていいだろう。



「…私が、面倒になったか」


「……」


「迷惑はかけていないつもりだ。移る心配があるなら、…こうしてお前が近づかなければいいだけだ」


「……」



どうして何も言わないんだ。

どうして、なにも言ってくれないんだ。



「…邪魔なんだよ、お前が」


「……」



今度は私が黙ってしまった。

突き放すような冷たい言葉は、この夜の静けさと鈴虫の声に消えてはくれない。



「今日よくわかった。俺の隣を歩くのは女じゃ駄目だってね。…弱すぎる」


「っ、それは……病気、だからだ」


「そうやって仇すら討てないお前に、同じ暗殺者として同情するよ」