夜が明けぬなら、いっそ。





それのどこが怒っていないと言うんだ。

そのままサラシも取られてしまうんだろうと諦めていると、男は1度しゃがんでいた腰を上げた。


しゅるっ、パサッ───。

そいつもなぜか脱ぎ始めている。



「……なぜだ」


「俺も血を流したいからね」


「…同じじゃなくていいだろ」


「おいで、」



おいでってなんだ。

まだ会話の途中だ、ふざけるな。


そう思っても、上半身を脱いでしまった男はそのまま私を丁寧に抱き上げた。

池へ入る寸前でサラシを暗闇の中でしゅるっと簡単にほどいてしまう。


バシャンッと、水が跳ねた。



「小雪、…俺の身体が見えるか」


「……暗くて見えないな」


「…出来れば見て欲しいんだけれど」


「…夜が明けたら…見せろ」



明けなくていい。

ぜんぶ、ぜんぶ隠してしまえばいいんだ。



「…背中に回していいよ、小雪」


「……別にいい。前は断っておいてなんだ」


「今日は特別だ」



それでも首を横に振った。

ずっと震える声で会話していることに、こいつはたぶん気づいていないんだろう。