夜が明けぬなら、いっそ。





例え同じ道だとしてもこんなに山奥を選ぶとは、この男は馬鹿なのか。

私はいつもの順序があるから慣れたものだったが、物好きにも程がある。


私について行きたい口実を作るならば、もっとマシなものがあるはずだというのに。



「…えぇ、ほんとに野宿だけで京に到着しちゃったよ…」


「余裕だ。お前はひ弱すぎる、徳川」


「……せめて下の名前で呼んでもらっていい?それだと色々目立ちすぎるから」



とうとう京にまでついてきた男。

私が江戸から遠路遥々向かった理由を聞くわけでもなく、ただ同じ旅人として隣を歩いているだけだった。


暗殺の仕事でもあるのかい?と、優しく聞いてきた昨夜のこと。

静かに首を横に振って答えた素振りが男に見えていたかは分からない。



「私の出身は京だ」


「…へぇ、珍しい。京詞じゃないから全くわからなかった」


「昔から暗殺者として育てられてきたからな。言語は標準語を教えられてきた」



これくらいなら話していいだろうと。

呑気に蕎麦を啜る男の顔を見たら、少し気が緩んでしまったらしい。