夜が明けぬなら、いっそ。





医者へ見せてしまえば、必ず安静にしろと言ってくる。

そしたら療養するしかなくなる。


それで困ることと言えば、この男と今のようなくだらなくて他愛ない話が出来なくなることだ。

だから「嫌だ」と示すために首を横に振った。



「…明後日、家茂くんが城下町へ下りる際の護衛を頼まれたんだ。そのとき倒れたらどうする」


「倒れないようにする」


「倒れたらの話をしているんだよ俺は」


「…お前が傍にいるから平気だ」



きゅっと袖を無意識にも掴んでいた。

じっと見つめてくるから、同じように見つめ返す。


ここで逸らしたら負けな気がすると、勝手な勝負を私の中で行っていた。



「……世の中には可愛さで許せてしまうことがあるなんて」


「は…?」


「…かわいいんだけれど。ズルいだろ、さすがにそれは」


「わっ…」



ぽすっと首筋に顔を埋めてきた。

なにをする、そんな反応すら飲み込まれてしまう微かな痛み。


ちゅっと吸い付く吸盤のようなそれは初めての感触だった。



「なっ、ん、」


「…はーー、…悪いね」



そんな思ってもない謝罪はいらない。

そう言いつつも、ちゅっと音を立てて、今度は生ぬるくも優しい舌で味わってくる。