「俺は今日、すごく嬉しかった」
「…あれは任務だ」
「そりゃまた君は随分と任務に忠実だね。ぶっきらぼうなくせに、わりと器用なところもあるのかな」
「そんなもの知らぬ」
逃げ場を無くされるように両手によって囲われる。
覆い被さる形の中でも、やはり隙間を空けてくれる様は悪人になりきれない証拠。
「お前は…上様のことを“家茂くん”と呼ぶのは絶対にやめた方がいい」
「ははっ、よく言われるよ」
「当たり前だ。見てる側がヒヤヒヤする」
でも彼も気に入ってるんだよ───そう言った男は、私の髪をすくうように撫でた。
景秀よりは長いが、こいつほど綺麗ではない私の髪。
しっかり手入れされた女の髪と間違えるほど、目の前の髪は私と違って艶やかだ。
「コホッ、ケホッ、」
「…小雪、蘭方医の元へ行こう」
「…平気だ。こんなの、どちらにせよ治療法はない」
「だとしても少しでも延命は出来るはずだ。お前が苦しそうな姿を見ている俺の気持ちにもなってくれよ」
本当は立っているのが辛くなることも増えて、直射日光を鬱陶しく感じることが多くなった。



