夜が明けぬなら、いっそ。





「…小雪、」


「やめろ」


「……」



顔を上げて、じっと見つめて、私の名前を口にして。

そのまま近づけてこようとするものだから即座に弾き返した。



「…あれは無効だ。夢だと思っている」


「……いや、したからね確実に。俺とお前は口吸いをした仲だ」


「無効だ。なんのことだ」



ここは最後までシラを切るつもりだ。

でなければ、今だってこいつは同じように重ねようとしてくる。


2度も奪われて堪るものか。



「……嫌だったのかい。俺はすごく良かったよ」


「……なんのことだ」


「小雪、それは無理だろう。柔らかかったし、血の味がしたね。そんなのを忘れる方が難しい」


「だからなんのこ───、っ!」



ちゅっと、唇ではなくそれは額に合わさって離れた。

くすっと笑う反応にどこか腹立たしくなって、平然を装う。



「……なんのことだ」


「…抵抗しないってことは嫌ではないってことか」



トンッ。

それは軽く押されただけだった。


けれど簡単に畳に背中を付けてしまった私は、やはり内心かなり動揺しているらしい。