……この馬鹿。
隠し通すなら最後まで油断するなと、それは暗殺の心得でもあるというのに。
“お母さん”は無いだろ…。
「…あ、間違えました。とても残念です」
いやぁ残念だ、困ったな───と、そいつはわざとらしくも安直の笑みで繰り返す。
なんてことをしていれば、笑い出したのは家茂公だった。
この人はどこか笑い上戸な将軍様らしい。
「はっはっはっ!こんな男に千代姫は勿体ないと余は思うぞ。だが、お主のような娘を放っておくのも気が引ける」
娘って……母親くらいの歳なのだが。
まだ家茂公は17歳だし、見ているだけで頭が混乱してくる。
「どうだ?ここは1つ、景秀より優れた者を他に紹介しよう」
「左様でございますか…!?」
「あぁ。所帯を持っていない家臣は山のように居るのでな」
コロッと表情を変えた姫様は、上機嫌に帰って行った。
これにて一件落着…か。
「…上様、」
「ん?どうかしたのか小雪よ」
「……すみませんでした」
「え、小雪?」と、咄嗟に頭を下げた私へ反応したのは景秀。
事が片付いたら最初からこうするつもりだった。



