「私は…こっちの名前の方が好きだよ。徳川なんかより全然いい」
「はは、それは口が避けても当日は言ってはいけないよ小雪」
「うん」
出雲 小雪。
今日から私の名前らしい。
この名前だけは、“ふり”が終わったあとも名乗って許されるだろうか。
「小雪、ほら米粒が付いてるよ」
「…ごめん、気を付けてはいたんだけど」
「いいんだよそれは。ちょっと可愛いもの」
箸を置いた景秀は私の横に腰を下ろす。
スッと伸ばした手からふわっと、今では慣れた香りが広がって。
血の匂いからも遠ざかるような今の暮らしは、やっぱりまだ慣れない。
けれどその手は米粒を掴むことはせず、頬に添えたまま。
「景秀…?どうかしたの…?」
「…ごめん小雪、俺は嘘を言った」
「嘘…?なんの…?」
「米粒なんか付いてないよ」
なんだ、そんなことか。
少しホッとした自分に可笑しくなって、くすくすと笑ってしまった。
「…でも夜が明けてない今なら全て隠してくれる」
だからずっと明けてくれるな───…。



