夜が明けぬなら、いっそ。





「景秀、」


「ん?」


「私の苗字…どうしよう。今までも戸ノ内とは名乗っていないから、私には無いの」



炊き合わせは完璧な仕上がりだった。

風呂は外の川でも十分だったが、さすがにと少し前に景秀が簡易的なものを素早く作ってしまった。


そんな慣れない新鮮な生活を女として行っている自分に違和感がありつつも、ずっと悩んでいたことを打ち明けた。



「…困るのは苗字だけ、か」


「え…?」


「ううん。そうだね、それも考えなければ」



どこか嬉しそうだった。


“トキ”とは言えないし、自分の中でも下の名前は“小雪”で定着してしまった。

それはもちろん誰かさんのせいで。



「───…出雲」


「…いず、も…?」


「そう。お前は今日から出雲 小雪(いずも こゆき)だ」



綺麗な響きだった。

和を感じるその名は、古風な印象を与えて儚げで、自分には勿体ないとさえ思ってしまう。



「これは俺が徳川に引き取られる前に名乗っていたものなんだ。
俺の本当の名は……出雲 景秀(いずも けいしゅう)」



出雲…、景秀…。

この男はもしかすると私と同じように小さな頃から暗殺者として育てられたのかもしれない。