「殺したい男がいる。…それだけだ」
殺気を隠せれていなかったのだろう。
目の前の男は酒を呑もうとはしなかったし、女はそそくさと逃げるように五畳一間を出て行った。
そんなものに気にもくれず、じっと見つめ合う私とそいつ。
「詳しく聞いても?」
「…私の育ての親を殺した男がいるんだ。だが、どんなに探しても名前も顔も未だに分からない。それくらい手疾い奴なんだろう」
「それじゃあ無謀すぎるね」
「だから私は名の薄い藩の暗殺者として情報を集めてる。きっとそいつは腕のある暗殺者に違いない」
同じ界隈に居れば、確実にいつか辿り着けるだろうと。
その男のことを少しでも知っている奴がいるだろうと。
そしてやっと、最近。
その男の微かな端くれのような情報を掴めたのだ。
「どうにも、背中に大きくバッテンの傷があるらしい」
「……へぇ」
深みを帯びる返事だった。
興味があるのか、それとも面白可笑しくからかっているだけなのか。
それがこの男からは何ひとつ分からないから厄介で。
「もしかしたらお前なのかもしれないな」
「じゃあ見る?俺の背中」
「…見せてくれるのなら」



