あなたを愛しています

それから、3年の月日が過ぎた。


「瞳。」


詩織さんに呼ばれた私は、席を立ち、彼女のデスクに向かった。育休を経て、職場に復帰して1年半。正社員に昇格した私は現在、詩織さんのアシスタントを務めている。


「これ。」


と差し出された資料を


「ありがとうございます。」


一礼して受け取る。


「基本的には口頭で伝えた通りだし、あんたも流れは把握してるから、心配はしてないけど、まぁなんかあったら、遠慮なく電話してよ。」


「はい、ありがとうございます。詩織さんのお留守はしっかり守れるようにします。」


私の答えに頷いた後、立ち上がった詩織さんのお腹は、だいぶ目立つようになった。


「私、出来ちゃったから結婚する。」


と突然、あっけらかんと宣言してから、かれこれ半年。明日から産休に入る詩織さんは


「じゃ、みんな、あとよろしくね。」


その言葉と笑顔を残して、去って行った。


詩織さんを見送り、後片付けをして、私も退勤。電車に40分程揺られて、自宅の最寄り駅に着いた私は、そのまま歩いて5分程の保育所に直行。


(りん)。」


私の呼び掛けた声に振り向いた男の子は


「あっ、ママ。おかえり。」


と言って満面の笑み。


「じゃあ倫くん、また明日ね。」


「うん、先生さようなら!」


見送りの先生に元気よく挨拶して、手を振るわが子の横で、私も頭を下げ、帰宅の途に着く。今日の出来事をまだ、たどたどしい言葉で熱心に話してくれる息子の話を聞きながら、手を繋いで歩く帰り道は、一日の疲れが吹っ飛んでしまうくらいの至福の時間。


まだまだ小さい歩幅で、一所懸命に歩いても、今の倫にはまだおうちは遠い。最後は私に抱かれて


「ばぁば、ただいま~!」


と玄関で元気な声。その声に、キッチンから文字通り飛び出して来た母が


「倫ちゃん、おかえり~。」


これまた満面の笑みで、倫を私から奪い取ると、頬をすりすりしている。


「じゃ、お母さん。私、着換えて来ちゃうから。」


その光景を見ながら、私は母に告げると、階段を上がり、自室に向かった。


倫が生まれて、もう2年。それにしてもお産は大変だった。


「案ずるより産むが易し。」


という言葉はきっとあの苦しさ、痛さを知らない男性が作ったのだろう。もうひとりどう?って聞かれたら、私は即答でノーサンキューだ。


もっとも産みたいと思っても、私にはもう叶わない。周りの妊婦さん達には、みんなパートナーが寄り添っていた。やっぱり寂しかった。