あなたを愛しています

「じゃ学、行って来ます。」


笑顔の夫の写真にそう語り掛けた私は、見送りの母にも声を掛けて実家を出る。今日も1日の始まりだ。結婚前に通い慣れた道のり。またそこを毎日たどることになるとは思ってもみなかったし、満員電車に揺られるのは好きではなかったけど、久しぶりのその時間は妙に懐かしさを覚えた。


オフィスに入れば、メンバ-も仕事内容も、5年のブランクの間に、だいぶ変わっていたが、私を知る人も、知らない人も暖かく迎え入れてくれて、本当に有難かった。


「さぁ瞳、今日からはまたビシビシ行くよ。いい?」


かつての教育担当の詩織さんは、今度は直属の上司。


「よろしくお願いします。」


私は頭を下げた。


「お姉ちゃん、大丈夫?」


仕事の合間には、同僚となった咲が気遣ってくれるが


「こら、仕事中は『西村さん』でしょ。」


とピシャリ。そう言えば、前に一緒にやってた人たちは、たまに『平野さん』と呼び掛けて来て、その人たちに頭を掻かせている。


そんなこんなであっという間に3週間ほどが過ぎた。専業主婦時代とは全く違う時の流れに、戸惑いながら、それでも充実した時間を過ごして来た私。


だけど、この日、出勤しながら、私は体調不良を感じていた。やや熱っぽく、吐き気や頭痛がし、またあまり食欲もない。


実は数日前からこんな感じで、生活リズムも落ち着いてきて、緊張感もだいぶ和らいできた結果、疲れが少し出て来たのだろう。


だけど、何と言っても試用期間中の契約社員の身。就職早々、甘えたことは言ってられない。


(とにかく今日を頑張れば、明日はお休みだし、週末ゆっくり身体を休めればいい。)


自分にそう言い聞かせながら、私は会社に急いでいた。


最寄り駅に着き、人の波に流されながら、電車を降りる。


(さ、今日も頑張らないと。)


張り切って歩き出した私だけど、会社に向かうにつれ、だんだん体調が芳しくなくなって来る。


(ちょっとまずい、かな・・・。)


それでも、歩を進めるが、いよいよ立っているのもしんどくなって来る。思わず立ち止まり、しゃがみ込む。みんな急いでいて、そんな私に目もくれない人が多い中、それでも


「大丈夫ですか?」


と声を掛けてくれる人はいる。


「は、はい。すみません・・・。」


大丈夫です、そう続けようとしたけど・・・言葉が出て来ない。