あなたを愛しています

さすがに、今は言葉にはしないが、私を家に戻したあと、学の一周忌くらいを目処に復姓をさせて、新たな人生を歩ませたい。出来れば新たな伴侶も迎えることも考えて欲しい。両親はそう願っているようだ。


子供もいないのだから、その方が結局、私の為になる。両親はそう思っているのだろうが、私には到底受け入れられる話ではない。


こうして始めた一人暮らし。まず私はハロ-ワ-クに通った、仕事を探さなければならない。生きて行くには必須のことだ。でも30歳、5年近く専業主婦をしていたら、夫と死別。特に人に誇れる経歴も資格もない女に世間の風は冷たい。ある程度、覚悟はしていたが、父の言葉が身に染みる日々。


そして疲れて帰って来ても、部屋には誰もいない。


「学・・・。」


思わず声を出して、夫の名を呼ぶ。もちろん返事はない。テーブルの上に置いた、彼とのツーショット写真が目に入る。この春、一泊で京都に桜を見に行った時のものだ。満開の桜の下で、肩寄せあって微笑んでいる私たち。幸せだった、この幸せがそれから半年も経たないうちに消えてなくなるなんて、当たり前だけど、想像したこともなかった。


なんで、どうして・・・心の中に詮無い思いがまた浮かび上がる。それを懸命に振り払って、私は明日に向かう。


だけど、状況は変わらない。面接にもたどり着けない日々。その上、学との思い出があまりにも詰まり過ぎているこの部屋で、学の痕跡に囲まれて、ひとりで暮らして行くことが、予想以上に辛いことだと、自分で認めざるを得なくなって来ていた。


(学、ごめんなさい・・・。)


自分が自分で情けなかったけど、どうしようもなかった。こうして、心が折れそうになるのを、懸命にこらえながら、しかしもうダメかもしれない、そんな弱気の虫が頭をもたげて来たある日のことだった。


この日の就活も虚しい結果となり、重い足を引きづるようにして帰宅した私。すると追い掛けるように、インタ-フォンが鳴った。モニタ-を見ると宅配業者のようだ。はいと返事をした私に


「西村瞳様にお荷物です。」


そのドライバ-の言葉に私はドアを開き、小さな包みを受け取った。


(誰からだろう・・・?)


そう思って、伝票の差出人欄を見た私は固まってしまう。


だってそこには「西村学」と記されていたから・・・。