あなたを愛しています

「お辛いと思いますが、まずはご遺体の確認をお願いします。」


そう言って、刑事は顔の布をめくり上げる。思わず目を背けた私だが、すぐに恐る恐る視線を向ける。そこにあったのは、見慣れた愛しい人の顔だった。ギュッと目を閉じた私に


「ご主人に・・・間違いありませんか?」


刑事が静かに尋ねる。目を閉じたまま、頷く私。


「ご愁傷さまです。」


その刑事の言葉に、何も反応できない私。流れる沈黙・・・それを破ったのは、私の方だった。


「どういう・・・ことなんですか?」


今、目の前に見えている現実が全く認められず、理解できず、私は説明を求める。


「今から3時間ほど前、西口の商店街に、1台の乗用車が突入して、暴走するという事件が起こりました。」


「あの商店街は、車の侵入は禁止ですよね?」


「はい。完全に故意に侵入した上の行動と思われます。」


「・・・。」


「車は、通行人を何人もなぎ倒し、最後はア-ケードの柱にぶつかって、停止しました。運転していたのは40代の男で、その場で逮捕いたしました。」


「その・・・なぎ倒された人の中に、夫がいたのですね。」


「はい。目撃者の証言によると、ご主人は逃げそびれた人をかばおうとして、巻き込まれてしまったようです。すぐに救急車で搬送されましたが、病院で死亡が確認されました。」


その言葉に、私は目を見開き、刑事さんに叫ぶように聞いていた。


「ウチに帰るには、東口のタ-ミナルからバスに乗らなきゃならないんです。なのに・・・夫はなんで西口の商店街なんかに居たんですか!」


「それは、私にはなんとも・・・。ただ、事故に遭われた際、ご主人はそちらに置いてあるビジネスバッグとそのケーキの箱をお持ちだったようです。」


刑事に言われて、私はベッドの奥のテーブルに目をやる。バッグは確かに夫が、毎日出勤の際、持ち歩いていた物。そして、無残にぐちゃぐちゃになったケーキの箱の包み紙は、地元で美味しいと評判のケーキ屋のものだと、辛うじて判別出来た。


「恐らく、ご主人は奥様の為に、ケーキを買い求められ、その帰りに事件に巻き込まれてしまった。そう考えるのが自然でしょう。」


まるで自分が悪いことをしたかのように、沈痛な表情で刑事さんは言った。


「わかりました。いろいろありがとうございました。」


私は棒読みのセリフのような抑揚のない口調で言うと、彼に頭を下げる。それを見て、刑事も一礼すると、私の前から姿を消した。