「あの……夢魔のことで相談があるんですが、お時間大丈夫ですか?」
「夢魔――Incubusだね。 もちろんだよ。何があったの?」
問いかけられて、どこまで説明して、何を尋ねるべきか少し迷う。
「夢魔が人間につける印をご存知ですか? 小さな、羽のような黒いアザが出るものです」
「ああ、知っている。夢魔の被害者によくみられる特徴だ。君にそのアザが?」
「はい」
私が肯定すると、電話の向こうで小さく息を吸う音が聞こえた。
「月乃さんと言ったね。君、体調は大丈夫かい? 夢魔は人の精気を食らう。中には、相手が死ぬまで精気を食らう悪質な者もいる」
「大丈夫です。最後に精気を奪われたのは半月以上前ですし、無茶な奪われ方はしていません」
「半月前――そうか。それで、まだ痣は消えていない?」
「消えていません」
「そうか。珍しいケースだね。印をつけたまま、手も出さずに半月も放置するなんて。それで、君が知りたいのは印を消す方法かな?」
この印は消すこともできるのか。
少し切なくなって、私は胸元の痣を手で押さえながら口を開く。
「違います。この痣をつけた夢魔がどこにいるか、探す方法があるのかを知りたいんです」
問いかけると、返事の代わりに少しの沈黙が返ってくる。
「もしかして、その夢魔は君の知り合いなのかい?」
ライアンさんの声のトーンが少し低くなった。
私はごくりと唾を飲む。
「夢魔を探し出してどうするつもりだい?」
「どうもしません。……ただ、会って話がしたい」
私がそういうと、電話の向こうでため息が聞こえた。
「君は、夢魔に魅入られた人間なんだね。たまに居るんだよ。彼らは整った容姿をしていることが多いし、誘惑に長けている。エサとして利用されているだけなのに、勘違いを起こして夢魔に入れ込んでしまう」
「ち、違います! 容姿が良いからだとか、そんな軽い気持ちで好きになったんじゃなくて……」
「ということは、やはり夢魔に好意をもってしまったわけだ」
責めるように言われて、私は黙る。
「悪魔に恋をするっていうのは、そんなにいけないことなんでしょうか」