太陽くんは、じっと私を見つめた。

彼の目に諦めが浮かぶのを見て、私はどうにか首を振りたかった。


嫌だ。諦めないで、太陽くん。私は大丈夫だから!


そう伝えたいのに、口が動かない。指先ひとつ、自分の意思で動かせない。



「分かったよ、紫苑さんの言う通りにする。だから、彼女を放せ」



太陽くんの言葉を聞いて、紫苑さんは私の首から手を放した。

もともと、傷つけるつもりなんて無かったんだろう。

紫苑さんは私の首に手を置いただけで、少しも力を込めていなかった。



紫苑さんは私から離れたけれど、身体は動かないままだった。

拘束を解かれた太陽くんが、ゆっくりと私に近づく。



「ごめん、月乃ちゃん。せっかく一緒に来てくれるって言ってくれたのに、やっぱり、俺じゃあダメみたいだ」

「…………!!」



そんなことないと叫びたかった。

危険な目にあってもいい。先がなくてもいい。

それでも、太陽くんと一緒に居たいんだ。



「俺に、夢を見させてくれてありがとう。――愛してる」



太陽くんはそう言うと、触れるだけのキスをした。



「行くぞ、橙」

「分かってる」



紫苑さんが太陽くんに声をかけた。

太陽くんは私に背を向けると、紫苑さんの手を掴んだ。



嫌だ、嫌だ、嫌だ!

連れていってくれるって、言ったじゃない!

私と一緒に居たいって、そう言ってくれたのに……!!



身体が動かない。私が声ひとつ出せないでいると、闇が太陽くんを包み込んだ。

瞬間、太陽くんがこちらを振り返る。

太陽くんは、全てを諦めたような悲しい顔をしていた。

悲しい顔をしたまま、闇に呑まれて消えてしまった。



「太陽くん!!!!」



二人が消えたとたん、身体を縛っていた力が消えた。

あらん限りの声で、私は太陽くんの名前を叫ぶ。



「太陽くん、太陽くん、太陽くん!!!!」



何度名前をよんでも、返事が返ってくることはない。

ついさっきまで、幸せだったはずなのに。

幸せそうな顔で、太陽くんが笑ってくれていたのに。



「こんなのって、無いよ……!!!」



涙を流しても、拭ってくれる優しい手はもうない。