「私はもう両親もいないし、親戚からは迷惑がられてる。太陽くんと一緒に失踪しても、誰も困らないし悲しまない。私には太陽くん以上に大切な人、居ないんだよ」
私だって、太陽くんと同じだ。太陽くん以上に大切な人なんて、居ないのだ。
未来に出会うかもしれない誰かなんてどうでもいい。
太陽くんがこれからも傷つき続けるかもしれないことの方が、ずっと重要だ。
「私は、太陽くんのことが好きだよ。だから、一緒に堕ちよう」
私はそう笑って、太陽くんに手を差し出した。
太陽くんは、今にも泣き出しそうな目で私を見ている。
「どういう意味か、分かってんの?」
「うん」
「これからの人生、投げ捨てるってことだよ。ずっと俺のエサにされて、幸せになんてなれない」
苦しそうな声で問いかける太陽くんが、痛ましい。
私は太陽くんの側に近づいて、震える彼の身体を抱きしめた。
「幸せになれないなんて、決めつけないで」
「……なれないよ。俺と一緒にいたら、普通の人生は望めないんだ」
「普通であることが幸せだなんて、誰が決めたの。一緒に年を取れなくても、家族を作れなくても、ずっと側にいることはできる。太陽くんと一緒にいれたら、それが私の幸せだよ」
「月乃ちゃん……」
太陽くんの腕が背中に回る。
きつく抱きしめられながら、私の肩口に太陽くんが顔を埋めた。
じんわりと、私の肩が濡れていく。
温かい太陽くんの背を、私はあやすようにゆっくりと撫でた。
「好きだ。月乃ちゃんが好き。愛してる」
「私も、太陽くんが好きだよ。愛してる」
太陽くんが顔を上げた。真っ赤に充血した目が、私を見つめる。
悪魔でも涙は出るんだなあ、なんて、馬鹿なことを思っていたら、太陽くんと唇が重なった。
長くて、優しいキスだった。
太陽くんは壊れものを扱うかのように、柔らかく、優しく私の頬に触れる。
「本当に、俺の側にいてくれる? ずっと?」
「うん。一緒にいよう」
「そんなこと、簡単に言っちゃっていいの? あとで嫌になったなんて言っても、もう遅いよ。ここで逃げなかったら、俺、もう絶対に月乃ちゃんを逃がしてやれない。俺に縛り付けて、それでも逃げようとするなら、君を殺しちゃうかもしれない」
私を抱きしめる太陽くんの腕に、力がこもる。
「いいよ。その時は、私を最後まで全部食べて」
私が笑うと、太陽くんの顔が泣きそうに歪んだ。
太陽くんは、そんな歪んだ顔も格好いい。
もしも死ぬまで精気を吸い取られても、太陽くんの一部になれるなら、きっと幸せだ。