どこに行くのかと思っていたら、春日くんは空き教室を見つけてドアをあけた。


「入って」


言われるがまま中に入ると、ピシャっとドアを閉められた。

薄暗い教室で春日くんと二人きりになって、私は恐怖に顔を青ざめる。


「あ、あ、あの。……き、昨日のことなら、誰にも喋ってませんっ!」


私が春日くんに呼び出される心当たりなんて、ひとつしかない。

昨日、おそらく彼女さんと思われる人のマンションにいたことを、黙っていてくれとでも言うんだろう。

先手を打つつもりで口を開いたのだけど、春日くんはじっと私を顔を見つめて、不思議そうに首を傾げた。



「うん。まぁ、その話をしたかったんだけどね」

「だ、大丈夫です。これでも口は堅いので。春日くんに彼女がいることを言いふらしたりしません」



人気者の春日くんは、恋人がいないと豪語している。

「軽はずみな気持ちで付き合いたくない」が、この男が告白を断る常套句(じょうとうく)だ。

なんで恋人がいないフリをしているのか知らないが、秘密をべらべら喋るつもりはない。