「太陽くん、寿命のことは知っていたんだよね?」

「うん。俺はもう、今の年齢から年をとることは出来ないんだって。でも、もっと自由に力を使えるようになれば、身体の見た目を変えることは可能らしいよ。多少老けて見せることくらいはできるかもしれないけど」



外見まで変えることが出来るのか。本当に、人間とは違う生物なんだ。



「俺が春日太陽でいられるのは、高校卒業までなんだ」

「それって、どういう意味?」

「年をとらない人間が、いつまでも同じ場所にいられない。高校卒業と同時に春日太陽は失踪して、俺は名前を変えて新しい場所でまた、高校生を繰り返すことになってる」



春日くんの言葉に、私はぽかんと口を開けた。



「それで、高校卒業までって言ったの? 私がエサになる契約」

「うん。高校を卒業したら、俺は今持ってるものを全部捨てて、別の人間にならなきゃいけないから」



別の人間になるって、なにそれ。

太陽くんが、どっかに行っちゃうってこと?



「なんで? 年を取らないっていっても、大学くらいは行けるんじゃないの? 見た目が変わんなくても、そんなに違和感ないじゃん」

「そうかもね。でも、同じ場所にずっと留まるのは危険なんだよ。同じ場所に居ればいるほど、俺が人間じゃないってことがバレるリスクが高くなる」



そんなことないと言おうとして、言葉を飲み込んだ。

だって、現に私は太陽くんを探している人を見たじゃないか。

悪魔だから、命を狙われるのだ。



「別の人間になるなんて、そんなこと、できるの? 身分を偽造するってこと?」

「うん。夢魔の能力に、ちょっとだけ記憶を改ざんしたりする力があるんだ。適当な身分をつくりあげて、偽造した書類を本物だと思い込ませる。それで、部屋を借りたり学校に潜り込めたりするみたいだよ」



実際に、悪魔の多くはそうやって色々な場所に潜り込んで生活をしているらしい。



「でも、お金とかは?」



春日くんの実家はお金持ちみたいだけど、失踪するなら実家に頼ることもできないだろう。

私が尋ねると、太陽くんはちょっと苦い顔をした。



「他の夢魔の仲間は、パトロンを作ってるみたい」

「パ、パトロン!?」

「うん。夢魔って顔が良いしセックスが上手いから、お金を出してくれる人に困らないって」



あんまりにあんまりな内容で、私は口を閉口させた。



「太陽くんも、そうするの?」

「どうだろう。でも、結局はそうやって生きていくしかないんだと思う」



淡々と語る太陽くんの言葉をきいて、私は喉の奥がカラカラに渇く。



「そ、そんなの……太陽くんは、それでいいの!?」

「それでいいも何も、そんな風に人間に紛れて生きていくしかないんだよ。何度も言ったでしょ、月乃ちゃん。俺はもう悪魔なんだ。人間じゃあないんだよ」