「とにかく、家に来て話そう。月乃ちゃん、ずぶ濡れだよ。そのままだったら風邪をひく。人間は弱いんだから」


太陽くんは、私の手を引いてベンチから立ち上がらせた。

私は太陽くんに腕をひかれるまま、とぼとぼと後ろを歩く。


傘を叩く雨の音が煩い。

ぐしょぐしょに濡れて全身が冷たいのに、太陽くんに捕まれた腕だけが熱い。

こんなぐちゃぐちゃな気持ちなのに、太陽くんが私の腕を引いてくれているのが嬉しい。

私を探してくれて、見つけてくれたことが、嬉しい。


私はやっぱり、太陽くんのことが好きなのだ。


太陽くんのマンションに入ると、バスタオルで全身を拭かれた。

それから脱衣所に放り込まれて、シャワーを浴びるように命令された。

私はしぶしぶと服を脱いで、シャワーを浴びる。

温かいお湯が、強張った心を少し解してくれた。



太陽くんに迷惑をかけちゃったな。



頭からお湯を浴びると、少しだけ心に余裕が戻ってきた。

紫苑さんに言われたこと、かなりショックだったけど、そもそも私は現時点では太陽くんの恋人でもなんでもなく、ただの食料でしかないのだ。

太陽くんの気持ちがどうなのかも分からないのに、先のことで思い悩むのも馬鹿らしい。

そう思うと、少しだけ肩の力が抜けた。



ぎゅっと髪についていた水を絞って脱衣所に出ると、バスタオルとシャツが置かれていた。

シャツはたぶん、太陽くんのものだろう。当たり前だけど下着は無い。



夢の中で何度も裸を見られているとはいえ、太陽くんの部屋で、太陽くんのシャツ一枚とか。


私は顔を赤くしながら太陽くんのシャツを着た。

シャツからは微かに太陽くんの香りがして、ますます顔が赤くなる。



「あの、シャワーありがとう」



私が脱衣所から顔を出すと、太陽くんはコーヒーを淹れてくれていた。

どうぞと差し出されたマグカップに口をつける。

ミルクと砂糖が入ったコーヒーはあったかくて、優しい味がした。



「落ち着いた?」

「うん。なんか、取り乱しててごめん」



甘いコーヒーを口の中で転がして、私は太陽くんの顔を見た。