だって、太陽くんを好きになってしまったのだ。

悪魔だって分かっていても、人間じゃないとしても、好きになった。

いまさら、諦めるなんてできない。



「駄々をこねてるんじゃねぇぞ。お前が深入りして、それで傷つくのはアイツなんだ」



紫苑さんは、はぁと大きく深いため息を吐きだした。



「もうすでに影響が出てる。あの野郎、お前以外で食事をしたくないんだとさ。それでもし、お前が居なくなったらどうする。俺達は精気を食わなきゃ生きていけないんだ」

「わ、私が、ずっと太陽くんの側にいたらいい!」



私がそう言うと、紫苑さんは冷たい目をしたまま肩をすくめた。



「ずっとって、いつまで? 老婆になっても、アイツに精気を渡し続けんの?」

「それは……」

「人間は勝手でいいよなぁ。俺様は何度も、人間を好きになった同胞を見てきた。悪魔の側にいると誓った人間を見てきた。だが、本当に寿命が尽きるまで側にいれたヤツは一握りしかいない」



彼は断罪するような口調で言葉を続ける。

紫苑さんの放つ言葉が、刃のように私に突き刺さった。



「ほとんどは30歳くらいになると嫌になる。一緒に歩いていても、周囲から姉弟か親子にしか見られなくなるんだ。子供だって作れない。その時になってようやく、悪魔じゃなくて普通の人間と恋愛した方が幸せになれると気づき始める」

「…………」



私は、何も言えなかった。

10年後、20年後、そうなったときに、太陽くんを好きだという気持ちを持ち続けられるのだろうか。



「だけどな、最悪なのは死ぬまで一緒にいた場合だ。見た目が変わらない相手に愛情を注ぎ続けて、それほどまでに愛したとしても、寿命ばかりはどうにもならねぇ。人間は俺達より先に死ぬ。そこまで自分を愛してくれた相手を失ったときの、同胞の悲しみはとんでもねぇぞ。伴侶を失って自ら命を絶った連中を、俺は何人も見送ってきたんだ」



紫苑さんの言葉は、とても重かった。実感がこもっていた。

彼は過去に、何人もの仲間の顛末を見届けてきたのだろうか。



「悪いことは言わねぇ。傷が浅いうちにアイツから離れろ。人間と悪魔は、生きる世界が違うんだよ」



紫苑さんはそれだけを言い残すと、闇に溶けるようにして消えていった。

紫苑さんが消えて、誰もいなくなっても、私はその場から動くことが出来なかった。



ふらふらと歩いて、近くにあったベンチに腰を下ろす。

太陽くんの家に行くのだと、浮かれていた気持ちが急速にしぼんだ。