「話って、なんですか?」
「担当直入に聞くぞ。お前、橙のことが好きなのか?」
ずばりと切り込むように言われて、私は面食らった。
「な……んですか、いきなり」
「いいから答えろ。お前は橙に恋愛感情を持っているのか?」
紫苑さんからピリピリとした空気が出ている。
はぐらかすのは良くないと思って、私は腹に力を込めた。
「その通りだよ。私は、太陽くんのことが好き」
私の返答を聞いて、紫苑さんは小さく息を吐いた。
「太陽くん、ねぇ」
紫苑さんはふんと小さく鼻を鳴らしてから、冷たい目で私を睨んだ。
「勘違いをするなよ。アイツはもう夢魔だ。悪魔の仲間だ。人間じゃあない」
「そんなの知ってる」
「いいや、分かってない。アイツもお前も、全然分かってない」
私の言葉を真っ向から否定して、紫苑さんは続けた。
「悪魔は人間と一緒には暮らせない。いっとき交わることがあっても、その生が重なることはない。どうしてだか分かるか?」
「悪魔が、人間を食べるから?」
「それもある。が、決定的な理由は、生きる時間が違うからだ」
どういう意味だと眉をひそめる私に向かって、紫苑さんは一歩前に出た。
「悪魔は年をとらない。老化もしないし寿命もない。たとえお前がアイツと結ばれたとしても、お前ひとりだけが年老いていき、アイツを残していつか死ぬ」
ひゅっと、心臓に氷を入れられたような気分だった。
年を取らない? それって、太陽くんも?
「悪魔は一箇所に定住できない。いつまでも年を取らない人間なんて、怪しまれるだけだからな。名前や身分を変えて社会に潜り込み、人間世界を転々と彷徨い生きることになる。人間と同じようには生きられないんだ」
淡々と、それが変えられない事実であるように紫苑さんは言った。
「これは警告だ。これ以上、橙に深入りするな」
「そんなの……嫌だ」