「配達6件、終わりましたぁ!!」
意気揚々配達用の自転車を片付けて、私は陽気に挨拶をする。
「お疲れ様。今日はそれで最後だし、もう上がって良いよ」
「ありがとうございます、お疲れ様です!」
店長から仕事を上がって良いとの言葉を貰うと、私は手早く片づけを始めた。
鼻歌交じりに帰る準備をしていると、店長が不思議そうに首をひねる。
「雨夜ちゃん、今日はやけにごきげんだね?」
「えへへ。実は、今からちょっと約束があるんです」
バイトが終わったら、太陽くんのマンションに行く予定なのだ。
お気に入りのイチゴ味のリップクリームを塗りなおしていると、店長がニヤニヤと笑った。
「雨夜ちゃんにもついに彼氏ができたか」
浮かれた気持ちを見透かされて、私はちょっと肩をすくめた。
「彼氏になったら良いなって、思っているところです」
「なるほどね。いいなぁ、若いって。頑張りなよ」
背中を押すような言葉を貰って、軽い足取りで店を出る。
スマホを取り出して、今から向かいますと太陽くんにメッセージを送った。
時間を待たずして、もう暗いから気を付けておいでよ、とメッセージが返ってきた。
そのやり取りが恋人っぽくて、ますます気分が向上する。
太陽くんのマンションに向かうため、公園を突っ切る。
日が沈んだあとの公園は人の気配がなく、街頭がちりちりと瞬いていた。
なんとなく嫌な空気をかんじて、早く通り抜けようと足を速めた、その時だった。
「よぉ、ちょっと良いか?」
突然、暗闇から声をかけられた。
慌ててそちらを向くと、派手な皮ジャケットを着て、腰からジャラジャラとチェーンを垂らした男が居た。
数日まえに一度会った、太陽くんの先輩。紫苑さんだ。
「紫苑さん?」
「よ。お前、橙のひも付きだろう? ちょっと話があるんだわ」
紫苑さんは軽く手を挙げながら、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。
話って、なんだろうか。
私はちょっと緊張して、身体を固くする。