そういえば、紫苑さんは太陽くんのことを、橙って呼んでいた。

あれは、太陽くんと融合した夢魔の名前だったんだ。



「融合したってことは、その橙さんの意識はどうなってるの? 今の意識は太陽くんなんだよね」

「そのあたり、良く分かんないんだよね。橙だった記憶は無いし、俺としてはずっと太陽のつもり。だけど、融合してからは感情の起伏が平坦になったり、考え方が少し変わったりしたから、上手く混ざり合ってるのかもしれない」


太陽くんの身体の中に橙さんがいるのか、それともすっかり融合してしまったのか。

自分の身体に別人が入るって、どんな感覚なんだろう。

気持ち悪くないのかな。


「もし街で紫苑さんを見かけても、月乃ちゃんはあんまり近寄らない方が良い」

「え、なんで? 知り合いなんでしょう?」

「あの人は得体が知れない。俺よりもずっと強い力を持った悪魔なんだ。あの人がもし君に何かしたとしても、俺の力じゃあ守り切れない」



太陽くんの言葉に私は目をまるくして、それから、嬉しくなってへらっと笑った。



「何、笑ってるの」

「だって、今の台詞って、私を守りたいって思ってくれてるってことでしょ」



守り切れないって、つまり、そういうことだ。

私が指摘すると、太陽くんは少しだけ気まずそうに唇を尖らせた。



「月乃ちゃんがいないと、困るんだよ。俺の大事な食糧だから」

「うんうん、分かってるよ」

「……その笑い方、ムカツク」



太陽くんはムッとして私を睨むと、突然、私の顎を掴んだ。

私を上に向かせると、ちゅっと軽く唇を合わせた。



「俺の昼食、もらっていくよ」



太陽くんはニヤリと笑ってそういうと、ひらひらと手を振って先に教室へと戻っていった。

取り残された私は、中庭で顔を真っ赤に染めた。