「精気って美味しいの? 今は食事よりも、精気を食べたい感じなんだ?」

「美味しいよ。精気を食べれるようになって、味覚が落ちたんだよね。食欲がそっちに切り替わったんだろうと思う。ご飯は食べなくてもお腹が空かないけど、精気が不足するとお腹が空くし」

「ふぅん。どんな味なの?」

「月乃ちゃんのは、どろっとして、すごく甘い。ぎゅっと旨みが詰まって、濃厚な感じ」



精気の味なんて想像がつかないけど、どうやら私の精気は甘いらしい。

人によっては辛かったり、しょっぱかったりするのかな。なんだかおもしろい。



「月乃ちゃんは霊力があるから。特に美味しいんだと思う」

「そういえば前にそんなことを言ってたよね。霊力って、私が人のオーラが見えるから?」

「うん。人間が持つ特殊な現象を引き起こす力を霊力って言うんだ。悪魔の場合は魔力」

「魔力と霊力は違う?」

「力の色が違うんだ。月乃ちゃんはオーラが見えるんでしょ? 魔力は黒くて、霊力は白い。そういうイメージだよ」



つまり、プラスのエネルギーか、マイナスのエネルギーかってことなんだろう。

ファンタジーな世界だなぁと感心しながら、私は玉子焼きを二つに割った。

焦げもなく、程よい固さで綺麗に巻かれた卵焼きを口に入れると、じんわりと出汁の味が舌に広がる。



「今は俺がマーキングしてるから大丈夫だと思うけど、気をつけてね。霊力が強い人間は、魔の者に狙われやすいんだ」

「え、なにそれ?」

「精気が美味しいって言ったでしょ? 夢魔が食べるのは精気だけだけど、悪魔の中には肉体や魂を狙うヤツもいる。普通の人間よりも、霊力のある人間を食べた方が力がつく。だから、霊力の強い人間は狙われやすい」

「わぁ、やっぱり私、霜降り高級牛なんだ……!」



好物だって言われて喜んだけど、太陽くん以外の悪魔でも美味しいって感じるってこと?

エサとして狙われやすいんなら、あんまり喜べないなぁ。



「まぁ、悪魔なんてなかなか遭遇するもんじゃないし、君はその目があるから怪しい人間は分かるでしょ? ヤバイと思った相手には、できるだけ近づかないこと」

「そういえば、紫苑さんも真っ黒だったもんね。悪魔ってだいたいあんな色なの?」

「たぶんね。俺は月乃ちゃんじゃないから、どういう風に見えているかは分からないけど」



そりゃあそうだと、私は頷く。

だけど、あんな風に真っ黒に見えるならわかりやすい。



「そういえば、紫苑さんとはどうやって知り合ったの? あの人も夢魔なんだよね」

「もともと、俺が融合した悪魔――橙って名前なんだけど、それの知り合いだったみたい。俺が悪魔になって10日後くらいに、ふらっとやってきたんだ。それで、夢魔についての基本的なこととか、力の使い方とかを教えてくれた」