「俺、愛とか恋とか、そういう感情って信じられないんだよね。父さんは母さんと恋愛して結婚したはずなのにあの有様だし、母さんは俺を愛してるなんて言ったけど、ただ気持ち悪いだけだったし」

「うん」

「だから、月乃ちゃんが俺を好きだって言ってくれたけど、それも正直、あんまり信じられない」



それは少し残念だったけれど、でも、無理もないかと思いなおした。

私だって、この気持ちがいったいどこから湧いてきているのか、上手く説明できないのだ。



「いいよ、それでも。私が勝手に太陽くんを好きだなって思ってるだけだし」



私がそういうと、太陽くんは照れたように顔を赤くした。

信じられないなんて言いながら、可愛らしい反応を返してくれるものである。



「なんか、ごめんね」

「なんで謝るの?」

「せっかく好きだなんて言ってくれたのに、こんないい加減で」



どこかしゅんとした様子でそういう太陽くんに、私は思わず笑ってしまった。



「なんで笑うの?」

「いや、だって、思った以上にちゃんと受け取ってくれてるから。私の気持ちなんてどうでも良いって、もっと適当にあしらわれるかと思ってた」



私が言うと、太陽くんは心当たりがあるのか視線を宙に漂わせた。

太陽くんはモテる。他の人から告白されても、適当に嘘をついて上手く断っているはずだ。

だから、私の言葉に真面目に向き合ってくれているのが、なんだか嬉しいのだ。



「いつもはそうしてるよ。だけど、月乃ちゃんに対しては、適当にやり過ごすのは、なんか違うって思ったんだ」



困ったような言葉に、心臓が跳ねる。

まったく期待なんてしていなかったのに、そんな風に言われてしまったら、自分が少しは特別なんじゃないかと誤解してしまいそうだ。

これが私に気を持たせるための演技なのだとしたら恐ろしいし、演技じゃなくて本音なのだとしたら、もっと恐ろしい。



「太陽くんって、やっぱり女の敵だ」



私は顔を真っ赤にしながら、そういって唇を尖らせたのだった。