「殺すことができるのと、実際に殺すかは別だって前に君は言ったよね。だけど俺は、人間を殺せるし、実際に殺したこともあるんだよ」


太陽くんはよく嘘をつく。だけど、今は彼が嘘を言っているようには見えなかった。

本当に、彼は自分の母親を殺したのだろうか。

ぎゅっと胸が苦しくなる。

太陽くんが分からない。彼が悪い人間なのは間違いない。

だけど、だったらなんで太陽くんはこんなにも寂しそうな目をしているのだろう。

彼は嘘つきなのだ。沢山の嘘で武装して、本当の心を見せないように守っている。



「それが本当だとして、どうしてそれを私に教えてくれるの? お母さんを殺しただなんてそんなこと、黙っていた方が賢いよね?」



私がそう問いかけると、太陽くんは驚いたように目を張った。

どうして私にこんな話をしてしまったのか、自分でも分かっていないような顔だった。



太陽くんはぐっと眉根を寄せてから、大きく息を吐きだした。



「月乃ちゃんがあんまり愚かだからだよ。俺のことを嫌いだなんて言いながら、不用意に俺に近づいて、俺の心配をしたりするから」



太陽くんはそう言うと、苦しそうに軽く首を左右に振った。



「なんで、もっと俺を拒絶しないの。なんで、俺のことを退魔師に相談しなかった? 俺は月乃ちゃんに酷いコトばかりしてるんだよ。なのに、なんで逃げないの。なんで簡単に俺の家についてきたりするの」



私を責めるように太陽くんが言う。

無茶苦茶な言葉だって思った。

だって、太陽くんが私を捕まえて、無理やりにエサにしたんだよ。それなのに。



「太陽くんは、私に怖がって、逃げて欲しいの?」

「俺は悪魔なんだ。そんなの、怖がるのが普通だろう。君が俺を嫌うのだって当たり前なんだ。俺は君に嫌われるようなふるまいばかりしているんだから」



太陽くんは苛立ったように声を荒げる。

私は呆れた気持ちで太陽くんを見つめていた。