「月乃ちゃん、俺が学校を休んだ日、実家にプリントを届けに行ってくれたんだって?」
「え、ああ、うん。行ったけど……」
そう。それも実は気になっていたんだよね。
あの大きな家。実家って、どういう事なんだろう。
お手伝いさんは、坊ちゃんは家を出て一人で暮らししている、なんて言っていたけど。
「俺、元々は人間だったんだよ。春日太陽として17年前に生まれた、正真正銘のただの人間。あの家も、正真正銘の俺の実家だよ」
太陽くんの言葉に、私はあんぐりと口を開けた。
太陽くんが、元々は普通の人間だった?
普通の人間が悪魔になるの? どうやって?
「悪魔って元々は精神生命体みたいなものなんだって。この世界に隣接するハザマみたいな場所に住んでる、肉体を持たない存在。だから、こっちの世界に来るには肉体を作る――受肉する必要があるんだ」
太陽くんの言葉は今ひとつ理解できない部分もあったけど、私は無言でうなずく。
とにかく、悪魔の住む異世界みたいなのがあるってことだろう。
「紫苑さんみたいに力の強い悪魔は、自力で肉体を作れる。だけど、力の弱い悪魔はそうじゃない。別の存在――それは、トカゲだったり、カラスだったりするときもあるけど、とにかく、元々その世界に住んでいる存在と融合するんだ」
そこまで聞いて、太陽くんが何を言いたいか、どうして1年前に悪魔になったのか理解した。
「それってつまり、1年前に太陽くんの身体に悪魔が融合したってこと? 悪魔に身体を乗っ取られちゃったの?」
私が驚いて言うと、太陽くんは首を左右に振った。
「それは、半分正解で半分は違う。乗っ取られたんじゃなく、俺が悪魔を呼んだんだ。俺は自分から望んで悪魔になったんだよ」
そう言って暗く笑う太陽くんの背後には、真っ黒なオーラが淀んでいる。
「月乃ちゃんは、俺が善人だとでも思ってるの? 人間だったときから、俺は悪魔を呼びよせてしまうくらいに悪人だった。ねぇ、俺が悪魔になって真っ先に何をしたと思う?」
太陽くんは暗い瞳で私の目を覗き込んだ。
私の頬に太陽くんの指が触れる。その手は、ひどく冷たく感じた。
「悪魔になった俺は、真っ先に母さんを殺したんだ。精気を奪いつくして、ミイラにしてやった」
くつくつと、暗い声で太陽くんが笑った。
おぞましさを感じる声に、私は言葉が出ない。
太陽くんが、自分のお母さんを殺した――?