私が名刺を受け取るのを確認すると、男は満足そうにして立ち去った。

狐につままれたような気持ちで、私は手元に残った名刺を見つめる。



悪魔は人間に害をなす、か。



ズキンと胸が痛んだ。

言われなくたって、太陽くんが悪い奴だって分かってる。

それでも、言えなかった。庇ってしまった。

あの人に話したら、この胸に浮かんだ痣も、太陽くんとの繋がりも、全部どうにかなるかもしれないのに。



だって、太陽くんは命を狙われているといっていた。

太陽くんのことを話したら、太陽くんが殺されてしまうかもしれない。

そんなのは嫌だ。

太陽くんが悪魔でも、私を利用しているだけでも、それでも嫌なのだ。



私は名刺を破って捨てようとして、思いとどまって鞄の奥へとしまった。

捨てるのはいつでもできる。

だけど、万が一、この名刺が役に立つ時がくるかもしれない。