「僕の勘違いならそれでいいんだ。だけど、君から良くない気配がする」
「良くない気配……?」


怪しい。とんでもなく、怪しい男だ。

だけど、良くない気配というものに心当たりがあった私は、思わず硬直した。


この人は、何なんだろう。

私は目を細めて彼を見つめた。

男のオーラは白く輝いている。悪い人間ではなさそうだけれど……。



「いきなりそんなことを言われても。宗教の勧誘か何かです?」

「そうじゃない。確かに、昔は僕らも協会に属していたんだけど、今は宗教とは乖離してるから、勧誘とかそういうのは関係なくてだね」



男はオタオタとそう話して、持っていた鞄から名刺を取り出した。


「僕はこういう者なんだ」



手渡された名刺に視線を落とす。

名刺には名前と肩書が書かれていた。


退悪魔協会 司教 ライアン・ブラック



「退悪魔協会、司教?」



ドクンと心臓が跳ねた。

退悪魔ということは、彼は太陽くんと敵対する者なのだろうか。



「エクソシスト、みたいなものですか?」

「エクソシストではないよ。エクソシストはカトリックの神父じゃなければなれないからね。まあでも、やっていることは似たようなものだし、僕達はもっと特化した集団」



緊張して鼓動が早くなる。いつでも逃げ出せるように、私は半歩足を後ろに引いた。



「先日、この辺で悪魔を見たんだ。だけど、あと一歩のところで取り逃がしてしまってね。君から微かに悪魔の気配がするんだ。何か、心当たりがあったりしないかい?」

「な、なにも……知りません」



私はとっさにそう言った。いきなりこんなことをいう人間なんて、どう考えても不審者なのに、私は彼の言葉に心当たりがばっちりあるのだ。

私の言葉を聞いて、彼は残念そうに眉を下げる。



「そうか。でも、もし何か気づくことがあれば連絡をくれないか? 悪魔は人間に害をなす。おかしなことが起こったり、身が危険だと思ったら、連絡をして」



そう言って言葉を重ねる男の目は、真剣そのものだった。

本当に私を心配してくれているような声色。

気が付けば私は名刺を受け取って、首を縦に振っていた。