「はいはい、霜降り牛にでもなれた気分で嬉しいよ。それで、何すればいいの?」
「とりあえず、こっちに来て」


太陽くんに言われるまま、私は彼に近づいた。

ただ近づくだけのに、心臓がどきどきなるのが悔しい。

こんな男に翻弄されるなんて、冗談じゃないのに。



太陽くんの手が私の頬を撫でた。ペットのネコを撫でるみたいな、優しい手つき。

触れられた頬が熱を持ったみたいに熱くなる。

普通じゃない反応に私は戸惑った。

触れられた場所がこんなに熱いなんて、きっと、夢魔の手は特別なんだ。

太陽くんが特別だからじゃない。太陽くんが、夢魔だからだ。



「ねぇ、キスして、月乃ちゃん」

「嫌だよ、なんで私から」

「お願い。月乃ちゃんからキスして欲しいんだ」



太陽くんが甘い声で強請る。

そんなふうに言えば、女がみんな思い通りになるとでも思っているのだろうか。

ふざけるなと、怒鳴ってやりたい気分だ。

何よりも嫌なのが、そんな太陽くんに惹かれそうになっている自分自身だ。



「嫌だ。どうしてもして欲しいなら、いつもみたいに私の身体を操ればいいじゃない」

「それじゃあ、意味がないんだよ。俺は、月乃ちゃんからのキスが欲しいの」



甘えるような声に、やっぱり胸がむかむかする。

今までは、太陽くんが私からの行為を強請ることなんて無かった。

私は軽く舌打ちをして、太陽くんの頬を掴んだ。

それから、勢いよく唇をくっつけて、すぐに離れる。



「これで満足?」

「もっと、優しくキスして欲しいんだけどなぁ」

「これ以上を望むなら、他の人に頼んで」



イライラした気分でそう言った。言ってから、胸が痛くなって余計にイライラする。

私が睨むと、太陽くんはすっと目を細めた。

心なしか、太陽くんの表情も不機嫌そうに見える。