私こと、雨夜月乃には幼いころから不思議な力があった。

人の心の色がオーラとなって見えるのだ。


私が初めてみた心の色は、父の背後にわだかまる黒いオーラだった。


最初、私はそれが何か分からなかった。

私の父は優しい人だった。休日に私を公園につれていき、一緒にボールで遊んだあとにブランコを押してくれる。そんな父が大好きだった。


小学校の時、両親が離婚した。

会社の金を横領していた父が、逮捕されたのがきっかけだった。

優しい父さんは、実は犯罪に手を染めていたのだ。


うちには沢山借金があったらしく、専業主婦だった母は夜間の仕事を始めて、ほとんど家に帰らなくなった。

マイホームを売って、小さな古いマンションに引っ越した。

そのころから、母のオーラにも黒い影が混ざるようになってきた。



母のオーラが少しずつ黒く濁ってきたころになって、私が見ているのは人の心の色なのだとようやく気が付いた。

他の人にはない、私だけの特別な力。

だけど、私はこの力が好きじゃなかった。



母のオーラは、日に日に黒く染まっていく。

それが見えているのに、私にはどうすることもできなかった。

どうやら、職場でなにか苦労があるらしい。勤務時間は段々長くなって、夜間だけじゃなく昼や休日も仕事に行く日が増えた。

母が職場に行くたびに、彼女のオーラが濁っていく。


あんまり心配になって、仕事を休んでと訴えると、母に頬を叩かれた。



『誰のために、人がこんなに苦労して働いてると思ってるの!』



そういって怒鳴った瞬間、母の顔が悲しみに染まった。

私に当たってしまったことを、きっと後悔したのだ。

そうして、ますますオーラが黒く濁る。



私は母を救うことができなかった。

母を手伝おうと家事をすれば、娘にまで気をつかわせてしまったと母は泣いた。

私が何かをするたびに、苦労をさせてしまってごめんなさいと母は謝罪した。



そうじゃないのだ。

私はただ、お母さんに笑ってほしかっただけなのに。



無茶な労働が祟って、一昨年、母は過労死をした。

最後まで私の存在は母の重荷であって、救いにはならなかったのだ。