太陽くんは私の腕を掴んでずんずんと歩き出した。

ため息を吐きだしながら後ろをついて歩くと、太陽くんは裏庭のベンチで立ち止まった。


「他に人もいないし、ここで良いよね?」



有無を言わさない感じでそう言って、彼はベンチに座る。

私はしぶしぶその隣に腰かけて、肩上にある太陽くんの顔を睨む。



「で、私に何の用なの?」

「用が無いと誘っちゃいけない?」

「迷惑なんだけど」

「酷いなぁ、恋人なのに」



悪びれなく言われる恋人という言葉に、ひくりと頬が引きつった。

恋心なんて欠片も抱いてないくせに。人を一方的に食料にしておいて、よく言えたものだ。



「人目のない場所でまで恋人ごっこする必要ないでしょ。用件は?」

「大した用があったわけじゃないよ。ただ、ちょっと君と話したかっただけ」

「迷惑なんだけど」

「二度も言う? 本当にツレないね」



嫌そうに顔を顰める私と対照的に、太陽くんは面白そうに笑った。



「でも良かった。その様子じゃあ、体力は回復したみたいだね」

「まるで、心配していたみたいな言い方だね?」

「心配していたよ。あそこまで精気を食べるつもりは無かったんだ」

「ふぅん、あっそう。まあでも、見ての通りだよ」



心配したなんて言葉を真に受けたりしない。

どうせ、私が回復しなければ次の食事がしづらいからとか、そういう心配に決まっているのだ。

太陽くんに、優しさや思いやりを期待しない。期待したって、馬鹿をみるだけなのだから。



「初日はかなりフラフラだったけど、次の日からは普通に動けるようになったよ。今はもう、どこも何ともない」

「良かったよ。まぁ、精気は時間経過で回復するから、大丈夫だろうとは思っていたけど」


はいはい。家畜の心配をご苦労様です。

心の中でベェっと舌を出してから、私は横目で太陽くんの顔を盗み見た。



「私のことよりも、そっちは大丈夫なの?」

「大丈夫って、何が?」

「敵対してるって人に見つかって無いんでしょうね」



私が問いかけると、太陽くんは濡れ羽色の目を丸くして驚いてから、まるで渋柿でも食べたように顔をしかめた。


「月乃ちゃんって、ほんと良くわからない人だね。それってまさか、俺の心配?」

「その馬鹿にしたような口調、やめてくれない?」

「馬鹿にしてるんだよ。俺がいなくなった方が、君には都合が良いはずだ」



当たり前みたいに言われて、私の眉間に力がこもる。



なんだそれは。

命を狙われているのだと知っていて、太陽くんが死ぬのを望んでいるとでも?



「いくら迷惑を被っているとはいえ、太陽くんが死んだ方が良いとは思えないよ」

「呆れたお人よしだ。俺に命を握られた上で、それでもそんなことを言うの?」

「私のこと、殺すつもりはないんでしょ?」



確信をもって尋ねると、太陽くんはますます嫌そうな顔をした。