「え、ほ、本当なの? 命を狙われてるの?」

「昔から、悪魔と人間は対立してきたんだって。今は悪魔の数も少なくなって、ほとんど表に出ないけど、悪魔を探し出して狩ることを使命にしている人間も居るんだ」



狩るって、つまり、殺すってことなんだろうか。

そういう人間に見つかったら、太陽くんは殺される?



「だ、大丈夫……なの?」

「大丈夫だよ。見つかったのは偶然だったし、上手く逃げられた。紫苑さんがこの近くに目くらましを張ってくれてるから、とうぶんは見つからないんじゃないかな」
「紫苑さんって、私をここに連れてきた人だよね?」

「うん。あの人は俺よりもずっと力の強い淫魔なんだ。俺に力の使い方とかを教えてくれたのもあの人」



太陽くんの話は、ずいぶんと現実感が無かった。

なんども夢で逢って、精気を取られて、太陽くんが普通の人間じゃないってことは知ってる。

教室での姿が作りもので、実は性格が悪くて腹黒いってことも知ってる。

それでも、命を狙われるほどの悪人だとは思えなかった。



「夢魔だってだけで殺されるの? 何も悪いことはしてないのに?」



私の言葉に、太陽くんは表情を消した。

一瞬、太陽くんの闇が深くなった気がする。ゾクッとするような、無表情。

だけどそれは本当に一瞬で、彼はすぐに、皮肉めいた笑みを作った。

私を馬鹿にしたような、嫌な笑みだ。



「月乃ちゃんってお人よし? それとも馬鹿? 自分が俺に何をされているか分かってんの?」



突き放すような冷たい言葉に、私は顔を顰める。



「悪魔にとって人間なんてただのエサだ。身体、ダルイでしょ? 力が入らないよね? ちょっと精気を吸い過ぎただけでそうなるんだ。精気を吸い尽くされたらどうなると思う?」


私を見つめる太陽くんの目は、凍り付くほどに冷たい。

太陽くんの纏うオーラは真っ黒で、底が見えないくらいに、暗い。



精気を吸い尽くされたら、どうなるか。

多めに吸われただけで、こんな風に体調を崩すのだ。

それを全部奪われてしまったら、もしかして――



「もしかして、死ぬの?」



私の問いかけに、太陽くんは仄暗く笑った。

正解と、唇を動かす。



「月乃ちゃんは、俺に命を握られているんだよ」



太陽くんはそう言って、私の胸元を指さした。

そこには、太陽くんにつけられた蝙蝠の形の黒い痣がある。



背筋がぞくりとした。


太陽くんのこと、普通じゃない、怖いってずっとそう思っていたのに、どこかで私は油断していたのだ。

春日太陽は間違いなく悪魔で、人間じゃあない。